〇第15:従地涌出品
この品も不思議な物語です。まず、他の世界からやってきた菩薩たちが、娑婆世界にとどまってこの教えを 説き広めたい意志を表白しましたところ、お釈迦さまは「この地球上は、そこに住む人間自身の手で美しくし、 幸せにしなければならない」ことを暗示されて、それをお断りになりました。そのとたん、大地がメリメリと 割れて、そこから無数の菩薩が湧き出してきました。  この菩薩たちは娑婆世界の下の虚空に住していたのですが、お釈迦さまのみ心にお応えして、大地から 湧き出してきたのです。娑婆世界の下の虚空に住していた菩薩というのは、人間世界の人でありながら、 人間世界の現実の泥にまみれない人をさすのです。ところが、お釈迦さまの要請に応じて、その悟りを 人間救済のために発動することになりますと、一度現実社会の生活に飛び込み、汚れと濁りの中にあえぐ 大衆の苦しみを体験しなければ、手も足も出るものではありません。大地を潜り抜けるというのは、 そういう意味なのです。  また、お釈迦さまは「これらの菩薩たちは、わたしが娑婆世界で悟りを開いてから教化したものであるが、 真実のところを言えば、はるかな昔から、わたしが教化してきたのです」と、たいへん矛盾したようなことを おおせられ、弥勒菩薩をはじめとするお弟子たちの頭はこんがらがってしまいます。そういう混乱を起こさせたのは、 おそらく、お釈迦さまの方便による伏線であって、次の如来寿量品第十六で、その疑問を一刀両断に 解決することによって、深い感銘を刻みつけようとなさったものと推察されます。すなわち、人びとは これまで現象的な存在である肉体人間だけを見てきたのですが、その奥底には不生不滅のいのち(仏性)が あることを、次の章ではっきり自覚できるように説かれるわけです。

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